成田出発からイルクーツクのホテルに到着するまでの動画はこちら
前回は、成田空港での免税店でのライブインタラクションを使ってお買い物が楽しくなった話をしました。
今日は、シベリア航空の機内のライブインタラクションの話をします。
ご覧の通り、シベリア航空はまるでモリアオガエルのような緑。
成田を15:25に出て、2時間半でウラジオストックに到着します。
座席には、スチュワーデスを呼ぶボタンもなければ、もちろん映画などを見る座席画面などは一切なし。
寝るしかありません。
機内はかなり混んでいて、窓際になったわたしの隣は日本人の若い男性が2名。
すぐ隣の人は、ヒューエイのパッドを開いてしきりに忙しそうになにかを眺めている。
横目で見ると、シグマだのガンマだの難しい数式がずらずらと並んでいます。
ただの数式ではない、どうやら原子力の方程式のようです。
原子力の研究者なんだな、学会でもあるのかな、ロシアの原子力研究所に勤めているのかな。
しかも手元に分厚いピンチョンの本まである。
そのうちに高度が安定し、食事タイムに。
食事タイムとは言っても、このウラジオストック便では、距離が短いので軽食のチーズサンドだけ。
ドリンクは、トマト、オレンジ、紅茶、珈琲、水、炭酸水。
機内アルコール摂取禁止。
ヴォートカの国だから、酔っ払いが出て大変なことになったのでしょうか。
トマトジュースは濃厚で美味しかった。サンドイッチは、機内ですぐに乾いてしまうが、食パン自体はもちもちしていて、なかなか美味しい。
それも食べ終わり、お茶の時間になったので、ふと横の人に話しかけました。
私:数学の学者さんですか?
学生:いえ、学生です。
ポツリポツリと会話をしていくと、彼は、京都大学の大学院生。量子力学の研究とか。
私:量子力学とは、ニュートリノとか、あれですね、スーパーカミオカンデとか。
学生:うわあ!すぐそれが出てくるなんて、よくご存知ですね!
私:こんな感じの鏡のある部屋をそれが通り抜ける速さを見るんですよね、行きました。
学生:いいなあ、僕はまだ行ってないんです。
私:いま大学院生ということは、3.11の頃は中学生か小学生ですよね。どうして原子力を?
学生:高校までは哲学に行こうと思ってたんですが、研究しても研究分野が狭そうで。それなら、なにかもっといろいろな方面から研究できそうな量子力学に、と。
私:なのに、この厚さ5センチの本までお読みなのですね、ピンチョン。
学生:ご存知ですか。
私:残念ながら名前だけ。この分厚さの本を持っての旅行ってすごいですね。
学生:キルギスとカザフスタンに行くんですが、待ち時間が長いので、長い小説でも、と。
私:キルギスへの旅行? じゃあさっき読んでいた原子力方程式は、学会のためとかではないのですか?
学生:学会はそれこそコロナのせいで閉会になってて。あの方程式は初歩ですよ。好きでよく読みます、時間潰しに。
私:方程式を読むのが娯楽というわけですか?
学生:ええ、楽しいです。
私:友人の作曲家が、ある日、寝そべって分厚い本を読んでいたので、何読んでるの?と聞いたら、ベートーヴェンの第6番交響曲と言ったんですよ。そしたら、本当にオーケストラの楽譜を読んでいたんです。録音されたものを聞くよりも、自分で楽譜を読んで自分の脳内で音を再生するんですって。そのときも、楽譜を実際に目で読むことを娯楽にしている人がいることに驚きましたが、ここには原子力方程式を読むのが娯楽の人がいるわけですね。
学生:楽譜を目で読むんですか、すごいですね。
こんな具合に、わたしも、演劇の話や、象徴と具象の話や、言葉と心理の話などをした。
お互いに全然知らない分野の全然知らない話を、しました。
わたしは名刺を渡してきたけれど、彼は名前さえ最後まで告げなかった。
(入国管理用の紙に記載する時に名前は見えたのだけれど・・・ごめんなさいね、演出家なので、いろいろ即座に目に飛び込んできてしまうのよ)
こちらの質問には愛想よく答えるけれど、とくにこちらに質問をするでもなかった。
わたしのほうが質問をしていて、彼が答える、という感じ。
かなり社会性の限られた人なのかもしれない。学者肌にはよくあること。
いやそれよりも、その頭の中には、答えるべき答えの量が多すぎて、整理整頓して会話をするには短い時間じゃ足りないからあえて答えるのを控えている、という感じでもあった。
分厚い小説をアナログで読み、方程式を趣味にし、キルギス、カザフスタン、イラン、インドを旅して回る将来の科学者
未知の国へ一人旅する性質はあるのだから、人間が嫌いというわけではあるまい。
でも、その国の人とどれだけ交流するかはわからない。
わたしも一人旅をしたい時は、体験よりも「観察」に集中することだってある。
社交的でないからと言って人を判断してはいけない。
そのとき、社交的になりきれない何かわけがあるだけのことだ。
長くなったので、続きは次回。
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アテンドさん、通訳さん、運転手さん、ツアーの仲間の皆さん、ありがとうございました! また必ず会いましょう!
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