公演写真:共演俳優の魅力と三輪えり花の演技を紹介

お写真メインでご紹介します。

ドレスリハーサルのときのものと公演中のもの。
ドレスリハーサルの時よりも本番のほうの写真に私のアップが多いのは、撮影者も芝居の内容に馴染んできたからかしら。私の登場する場面は大勢さんで照明もいわゆる「普通」状態なので、写真にしてもあまり面白くなさそうなところ。だからドレスリハーサルの時のは私は大勢の中に埋もれている写真ばかりでした。内容を知れば、ひとりひとりの演技の大切さが撮影者にも伝わったと思うと、本番写真で、セリフがなくても表情で演じているところを捉えていただいたのはとても嬉しい。

三輪えり花の出演場面は少ないので、全体のストーリー紹介とはなりませんが、雰囲気は感じられるかと思います。

参考:

これらを観たり聞いたりすると、今回のキャストの素晴らしさがおわかりいただけるかと。

キャスト音声インタビュー:石川朝日(パリス)&三輪えり花
https://stand.fm/episodes/6304260cc52e3039d5a6cf11

キャスト文字インタビュー:全員
https://kazanoffice.com/interview

それから、どんなリハーサルからこの本番が生まれたかも書いています。
併せて読むと面白いかも。

リハーサルを正直に振り返る
辛口コメントからこの本番という奇跡。

全てのお写真は撮影:おおたこうじ


美女ヘレナの親衛隊老人として、後ろで。青い衣が三輪えり花。
手前の老人二人の左端は、まだ多摩美術大学の3年生 木島史人(きじまふみと)さん。
稽古の時から学ぼう、吸い取ろう、という意欲が素晴らしく、私にもがんがん食らいついてきました。稽古中からまず目を合わせて呼応しようとしてきたのが彼です。だから一緒に演技しやすかった。これからの成長が楽しみです。

長男ヘクターの妻アンドロマケの妊娠を寿ぐヘカベ。


アンドロマケは日本舞踊の名取でもある 桑原なお(くわはらなお)さん。
最初は私に対しても抵抗を感じていらしたようですが、数回目のリハーサルから、どんどん心を開いてくれて嬉しかった。歌を一緒に合わせることも多かったし、楽屋もお隣に。たくさん心を通わせることができました。とっても嬉しかったのが、本番に入ったあたりから、この一緒にいる場面に関して彼女がぐんぐん花開いてきて、へカベのセリフにアンドロマケが答えるという構図が、台本から奇跡のように浮かび上がってきて、素晴らしい場面になったこと。呼応しながら演技できて、本番中は本当に大好きな楽しい場面になりました。


平和の女神 Peace を演じ、他の場面ではアンサンブルや侍女として存在した 吉野香枝(よしのかえ)さん。
音楽と教育が専門のかたで座組の音楽関係では本当に本当にお世話になりました。人間劇場の若手俳優たちへの愛情とケア、年上の俳優たちへのリスペクト、そして分け隔てない親しみやすさ。舞台監督助手・演出助手としての技量も抜群で、欠かせない存在。どれほど助けられたことか!


夫である国王プリアモスをからかうヘカベ。
国王プリアモスは、鈴木忠志のところで国際的に大活躍していた大俳優 中山一朗(なかやまいちろう)さん。
優しくて暖かくて、常に他者を応援し続けるすごい人です。稽古期間中は、プリアモスの威厳を追求していた感じでしたが、本番に入るあたりから、ご本人の人間的な優しさが溢れ出し、引退した好々爺というプリアモスになってきて、めちゃくちゃ楽しかったです。
とくに、1幕の最後で、「戦争の門を閉めに行こう」と国王が宣言してくれたことへの心からの感謝を示すと彼も「よしよしわかっとる」な反応で返してくれたところがお気に入り。退場のために一瞬腕を組むところなので、国王は後ろ向きだし、お客さまから表情などは見えないし、もちろん写真はないし、ビデオにも映らないのですが、このような一瞬こそ本当に大事なのです。


長男ヘクターが弟パリスにヘレナと別れるよう説得しているところ。
パリスは「いいですよ」と応えるので、私は毎回驚きと尊敬を込めてパリスに Good Boy! とこっそり言う。リハでこれを始めてから、パリスと舞台上で関わる機会が増え、まずはここから家族らしくなってきたと思う。
トロイ戦争の発端として、また、ゼウスのポーン(駒)としてキーマンとなったパリスはヘカベの息子の一人。彼が生まれた時、ヘカベはトロイが彼のせいで滅びる予言を受け、夫プリアモスはパリスをすぐに殺す命令を下しました。命を受けた部下は国境近くの荒れた山まで行ったものの殺すことができず、そこへ置き去りに。その赤ん坊を拾ったのはギリシャ側の羊飼い。(ええ、オイディプスの神話にそっくりですね。)そのパリスが世界一の美女を連れて生きて戻ってきたのですから、母ヘカベの喜びはどれほどのことだったことでしょう。
石川朝日(いしかわあさひ)さんが演じました。
考えをはっきりと言う、好青年です。普段は言葉を使わない身体表現や仮面作成ワークショップを行なっているので、セリフのある舞台は久しぶりとのこと。これからが楽しみです。

実は歌ってました

お写真がないのは、写っていないからです。
が、ヘレナの登場と、引き続くパリスとヘレナのダンスの際、背景で歌いました。
歌詞はなく、母音だけでメロディを奏でるものでした。
こんな高音域で、雰囲気をつけながら歌えるようになった自分を褒めてあげたい。2019年の冬には無理でした。2020年も無理でした。2021年も無理でした。2022年に入ってから、オペラ歌曲でも高音域のあるものに挑戦を始めて、もしかしたら出るかも、と思いやってみたのです。
写真に残らないくらいだから、動画でもカメラはこっちに来ていないだろうな。なにしろメイン舞台で踊るヘレナとパリスが美しいから。残念だけど仕方ない。
作曲は福島梓さんというかた。パパタラフマラはじめ身体表現系の舞台で活躍するかたで、とっても優しいの。彼女のことはリハーサル記録の記事にも書いています。



道化のような幾何学者のギャグに付き合うヘカベ。
幾何学者を演じたのは 菊沢将憲(きくざわまさのり)さん。
映画監督でもある彼は実に芸達者で、くねくねと身体を動かしながら台詞を言っても、そこにセリフだけで独立できる意味の深さと強さを表現できる人です。初期のリハーサルの頃、ラストシーンのオデュッセウスの長いセリフを、ほとんど動かずセリフだけでしっかり意味を伝えたのを見ました。「意味を伝える」とは、辞書上の意味ではなく、「それらの言葉によって相手に何をさせたいのか、何をわかってもらいたいのか」ということです。
(例えば「おはよう」の一言は、辞書上の意味は朝の挨拶ですが、これを言う人が、相手に対して「あなたに腹を立てています」ということをわかってもらいたいために使うことができますね。演劇での「言葉の意味を伝える」とはそのようなことです。)
今回は演出上、たくさん動いたキャラクターになりましたが、動かなくても言葉の力で観客を巻き込むことができる人です。12月に私が演出するアイルランドの本邦初演作に役柄としてもピッタリなので出演していただきます。お楽しみに。


戦争にはならないと知った時(のちにこれが覆される)、戦争の門を閉める儀式のために登場したところ。母として子供を可愛がることをどう演技に出せるかと、末娘の髪飾りを直したり、パリスと手を繋いだり、いろいろ試すうちにパリスもどんどん息子らしくなってきて本当に大好きな場面になりました。

末娘ポリクセヌを演じたのは演劇は初舞台の多摩美術大学2年生 片岡わかな(かたおかわかな)さん。
バレエをずっとやってきているので姿勢は良いし動きは綺麗。なによりも、「なんでもやります!」の学ぶ心と姿勢が素晴らしい。発声はこれからですが、何を頼まれても「はい!」と受け入れる。今回も楽器隊としても実に素晴らしい働きをしました。稽古中は、相手に対して働きかけることがなかなか難しそうでしたし、私が働きかけることに対してもどう反応して良いかわからないようで戸惑いがみられましたが、本番中のお写真をご覧ください! 実に自然にポリクセヌになっています。素晴らしいですね。これからが本当に楽しみです。


デモコスの挑戦を受けているパリス。母も同じポーズなのがウケる。


戦争推進派の元老院議長デモコスに痛烈な皮肉を言うヘカベ。
デモコスを演じるのは狂言界からの魅力的な俳優 川野誠一(かわのせいいち)さん。
稽古場でいつも声をかけてくれるその笑顔は百万ドルの価値! どんなことからも「すごいなあ」と良さと学びを見つけて吸収しようとする姿勢が素晴らしいです。
稽古中も本番中もアンサンブル人間効果音隊としてお隣にいました。老人隊のときもいつもギャグを言い合って(しばしばきっかけを聞くどころではなくギャグに夢中になったことを告白します)楽しかった!


ヘクターが戦没者への追悼の辞を述べているのを聴いているヘカベ。

トロイを率いるヒーロー、ヘクターを演じるのは俳優座の美形スタア 脇田康弘(わきたやすひろ)さん。ワキの字のつくりは、「力」三つではなく、「刀」三つです。変換がこのブログ内でうまくいかないので、常用漢字で失礼します。
最初のリハーサルの日に、わざわざ話しかけてきてくださった低姿勢に感服しました。演技にかける情熱もすばらしく、一挙手一投足が美しカッコよくていつも見とれていました。
ハムレットのように、セリフの量やキャラクターの役割から、つい「自身の表現でいっぱいいっぱい」になりがちなタイプの役柄ですが、本番が迫るに従って、色々なことから自由になったのか、舞台上でたくさん目が合うようになりました。そうなると、母と長男という関係がしっかり作れるようになり、一緒にいる場面はいつもとても楽しかった。私がとくに好きだったのは、もちろん、彼がアジアでの戦から戻った直後に彼を迎える場面。台本にはセリフがないので、夫が話を始めるまえにとっとと長男の元へ駆け寄って、抱きしめることにしたのです。それから、この演説の後に、戦争の門が閉まって、末娘と喜ぶところで、ヘクターも一緒に喜ぶところ。うーん。楽しかった!


ギリシャ軍が攻めてきて一触即発の状況で、デモコスをたしなめるヘカベ。
戦争の顔とは「雌猿が高い木に登って破廉恥なカツラをつけた赤い発情した尻をこちらへ向けている」ものだと、デモコスを揶揄する。「雌猿」は生殖能力のない男。「高い木」は元老院議長という、戦争に行かなくて良い立場にあぐらをかいている状態。「破廉恥なカツラ」は多分、オリジナルでは衣装としてそうだったのではないか。「赤い顔」で「発情」しているデモコス。


勝ち誇り、立ち去る。
傀儡のように国王を操り国を戦争へ持ち込もうとするデモコスに対立。この場面でデモコスが叩きのめされていれば、次の彼の場面で、ギリシャからの交渉団長オイアックスに対し、彼がこっそり「私を殴れば戦争にもちこめるぞ」とずる賢い策を伝え、民衆を扇動する理由を作り出そうとした姑息さが際立つだろう。


末娘ポリクセヌがおかしくなったのを心配する。ポリクセヌと王妃はトロイ戦争で崩壊した城から連れ出され、オデュッセウスの奴隷とされる。そしてポリクセヌが生贄として殺された時、王妃は狂って犬になる、という後日談をエウリピデスが『ヘカベ』という戯曲で書いている。それを示唆するような場面にしたいと思った。


ポリクセヌがヘレナにたぶらかされたことを知り、ヘレナと対決しようとする。
息子パリスの連れてきた世界一の美女は、王妃ヘカベも対抗しきれない存在だったのではないかと、途中の段階では、もっとヘレナと仲良くなりたい、ヘレナに共感を示すようなヘカベもやってみた。最終的には、彼女に圧倒されてたじたじとなるように演じた。

絶世の美女ヘレナを演じたのは新国立劇場の演劇研修所で学んだ 田村彩絵(たむらさやか)さん。
今もバレエを子供たちに教えているので、身体の動きが実に美しい。すばらしいのはセクシャルな魅力をじゅうぶんに振りまけるところ。とってもやさしくて穏やかで、指の先、足の先までその優しさと柔らかさが伝わるような動きをする人です。

この後、へカベは今回の演出では登場しない。

ジロドゥの原作では無言で、プリアモス王と共にもっと登場しています。
声(言葉)を失った旧世代の、戦争賛成派の夫と反対派の妻が、どんな表情とリアクションで、ヘクターとギリシャからの使者オデュッセウスとの会見を見守ったのか、もしも私が演出なら、無言の目撃者たちの存在は、声を出せない大衆の代表としての見せ所かと思う。


ヘレナとアンドロマケの対立場面に、演出家が人間効果音と「なにかの魂のようなもの」を放り込むアイディアとして背後で蠢くアンサンブル。
私は、トロイ戦争でトロイが完璧に破壊され、奴隷としてギリシャに掠奪され末娘と末息子をギリシャにおいて虐殺されたあとの母親の魂として、ここに登場することにした。左端の青い人。
このような心理的サポートを持つと、即興の動きに迷いがなくなる。


へカベとしてではなく、パリスとヘレナの肉体的接触を目撃した船乗りとしての登場。
ヘクターがヘレナは手付かずのままだと嘘を主張したい作戦に対し、トロイの男の名がすたる、と船乗りたちが反乱を起こす。もちろん戦争賛成派。
歴戦で勝ち誇ってきた、負けを知らない荒くれ男たちが、この戦争もちょろいもんだと思っている状態は、10年後に全員が死に、トロイが歴史から消えて無くなることを知っていると、戦争賛成派の人たちの阿呆さ加減が身に沁みる。大東亜戦争もそうだったよね。


中央で握り拳を挙げているのは、トロイリュスを演じた(ここでは船乗り)神田智史(かんださとし)さん。
この作品の主催である人間劇場のオリジナルメンバーでもある。みんなにかわいがられるマスコット的存在。今回は、鉄琴をみごとに演奏してくれて、座組の音楽部門を強力にサポートしてくれた。鉄琴があってこその歌とダンスでした。プロデュース側のマインドも持っていて、この先が楽しみです。


女神イリス(シェイクスピアの『テンペスト』にも登場しますね)の突然の登場に平身低頭しつつ、その話の内容にリアクションを入れる船乗りの三輪えり花。

イリスを演じるのは、カサンドラ役も演じている 旛山月穂(はたやまつきほ)さん。
最初のチラシ撮影のときに、すぐそばにいて、私が取るポーズのひとつひとつにうなづいてくださって、とっても励まされました。そのときから大好きです。カサンドラがいつも暗い顔をしているので、「ヘクターが戻ってきて戦争をやめると言ってくれたら、あなにかけられた呪いも解けるかもしれない。誰にも話を聞いてもらえないんだから、と捉えずに、この呪いも解けるかもしれない、と希望を持って生きるんじゃない?」という話をした。
キャラクター作りの基本は、「どうせ」を「きっといつか」に変えること。それだけでドラマは観る価値があるものになる。

おまけ:アレクサンダーテクニックで培った背中

上の写真の右端にいる青い服の私の背中にご注目。
船乗りは基本的に姿勢が良くないと務まらない。(あ、全ての軍人はね。)船の上でバランスをとって戦わなくちゃならないから背筋と腹筋のバランスが良い。(前後の筋肉バランスが崩れていると船のローリングに耐えられない。)遠くの沖合を注視する癖がついているので首が上に長い。首が前に倒れていると少しの揺れでもバランスを失って甲板で滑ってしまう。
などの理由で、船乗り姿勢を研究。平身低頭の時も、職業としての背中と首はすっきりと伸びている状態を目指しました。
ちなみに、私も、やろうと思えば猫背はできます。


カーテンコールと記念の集合写真。
みんな誇らしい!
美しい座組。
三輪えり花、耳が出てしまいました。正体がバレた。
最後の1枚は、演出家さんいらっしゃいです。
立本夏山(たちもとかざん)さん。
本人、身体表現派の俳優でいらっしゃる。プーチン侵攻の始まる2週間前にロシア人演出家と『かもめ』の1場面を彼と演じたが、意思疎通が楽でとても演じやすかった。また俳優の彼と舞台をご一緒したいです。
今回の座組は彼の人柄に率いられました。穏やかな、4児のパパです。

人間劇場と今回出会った皆様、素晴らしい夏をありがとうございました。

留意点

ギリシャ神話の基本名称でこの記事を書きました。
作者のジャン・ジロドゥはフランス人なので、実際の翻訳と上演名称はフランス語読みです。

ギリシャ語通常読み→フランス語読み(上演名称)の例
 ヘカベ→エキュブ
 ヘクター→エクトル
 ヘレナ→エレヌ
 プリアモス→プリアム
 アンドロマケ→アンドロマク
 カサンドラ→カサンドル


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA