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  • 100倍シェイクスピア『じゃじゃ馬ならし』プロローグ2

    100倍シェイクスピア『じゃじゃ馬ならし』プロローグ2

    シェイクスピアの書いた一番最初の作品群の一つ『じゃじゃ馬ならし』。

    この戯曲には、本編が始まる前に、「プロローグ」とも言える場面が二つも付いています。一つめはもう別の動画で解説しています。ここでは、プロローグその2 を、演出家の視点、観客の視点、俳優の視点から、そして歴史的、当時の状況などを知りながら、楽しんでみたいと思います。一緒に遊ぼう、シェイクスピア。Let’s Play Shakespeare!

    プロローグ2の冒頭を見てみましょう。

    酔っ払いのスライが千鳥足で入ってくる、その後ろに、お付きの者たちが、朝のお支度のための小道具、洗面器とか水差しとかお召し物などを掲げ持って入ってくる。領主様も召使の格好をしている。

    ↑ 領主様が召使の格好をしている、というのを、観客にどうやってわかってもらいましょうね? 少し遅れて、領主ジャケットを脱ぎながら、本物の召使に召使ジャケットを着せてもらいながら、追いかけるように登場したりとか?

    スライ:ばかやろう、ビールだ、ビール!

    この第一声のあと、三人の召使が早速、彼の状況を作り上げます。

    召使1:御領主さま、スペインから直輸入の白ワインがございますが、いかがでしょう?
    召使2:閣下殿下、この甘〜いフルーツの蜜漬けはいかがでしょう?
    召使3:閣下におかれましては、本日はどのお召し物がご気分でございますか?
    スライ:俺は、クリストファーrrrrスライだ。閣下殿下だのご領主さまだの呼ぶない。

    このスライの反応は、召使たちの想像通りだったかしら?それとも想像とは逆?

    それを先に召使同士で決めておくことで、「しめしめ、早速驚いているぞ」と反応するか、「え、この状況に乗ってこないぞ、どうしよう」と反応するか、できますね。

    もちろん、スライも、「人違いですけど・・・」とドギマギして言ってもいいし、自分を誰かと間違えている召使たちを「お前らバカか?」という態度で言ってもいい。

    スライのセリフの後に公爵がしゃべります。なぜ?

    理由1 公爵も入り込まないと遊びに乗り遅れそうだから

    理由2 スライの剣幕に召使たちがタジタジとなったところを助け舟を出した。

    どちらの理由でもいいんです。演者は、「なぜ今ここで喋るのか」理由を考えておこうね。

    ところで、この、状況を与えるゲーム、インプロのゲームでもかならず使います。相手に一言で何か言い、相手はその条件を受け入れて使っていくゲーム。「先生!」と話しかけられれば、相手は「あ、俺は先生か」と、先生役を受け取って演じます。行き詰まると演出家や外野が助け舟を出すのです。

    そのうちスライもあれ、おかしいな、と思うようになります。

    スライ「俺はクリストファー・スライじゃねーのか? バトン・ヒースのスライ爺さんの息子だよ。生まれは行商人として生まれ、育ちは羊の毛鋤櫛作り、最初の仕事は熊の見張り、で今は金物直しの仕事をやってる、そうじゃねーのか? ウィンコットの居酒屋のおかみ、マリア・ハケットに聞いてみな。

    当時の街の職人たちの仕事が羅列されていますね。『夏の夜の夢』にも街の手工業者たちが出てきます。どんな仕事なのか、調べておかないと、です。これだけきちんと生まれ育ちが述べられているキャラクターは滅多にいません! どんな人格、どんな性格、どんな体格、どんな体の使い方、それらがこの人生の歴史から見て取れるように演じられると最高です。

    ちなみに、居酒屋のおかみがいるというウィンコットは、架空の地名ですが、シェイクスピア研究者の間では、シェイクスピアの生まれたストラットフォード・アポン・エイヴォンから5km(歩いて1時間ちょい)あたりにある、ウィルムコートという村のことだと考えられています。そこは、シェイクスピアのお母さん、メアリ・アーデンの家があり、シェイクスピア時代のくらしを子供たちが体験できる観光スポットになっているんですよ。わたしもまだ行ったことがないので、次は訪ねてみたい場所です。

    さて、スライをもっと信じさせるために、公爵ががんばります。

    公爵:音楽でもお聞きになる?ほら!アポロが奏でる音楽が!

    そして音楽が聞こえてくるわけですが、控えている楽師たちは、この瞬間までどうしていたい?

    自分たちが音楽を弾ける瞬間をいまかいまかと待っていても良いし、

    公爵と召使がスライを騙していく過程を呆気に取られてみていて、公爵が目配せや手を振って合図を送って、やっと慌てて、「おっと、音楽音楽!」と演奏を始めても良い。

    どっちもおもしろい。

    公爵は続けます。

    それともお眠りになる?
    お散歩したいならそうおっしゃって。
    それとも乗馬になさる?
    鷹狩りはお好きでしょう?
    それとも、犬で狩に参りましょうか?

    この質問の感じは・・・そう!『夏の夜の夢』の妖精女王タイテイニアが、ロバになったボトムのご機嫌をとるところにそっくりですね!

    この箇所は、公爵の提案に合わせて召使たちが次々にその状況を作り出していくと面白くできそうです。

    お眠りになる?と言われたら枕を差し出したり、乗馬になさる?と聞くと乗馬ブーツや鞭をさしだしたり。次々にペース良く慌てていきたい。

    そしてついにスライも

    俺は領主なのか?
    いや、夢なのか?
    いや、これまでが夢だったのか?
    俺は今眠っていない。見える、聞こえる、喋れる。良い匂いもかげるし、物に触る感覚もある。

    と、五感を試します。ここも、ボトムが夢から覚めて、まだ夢を見ているのかどうなのか確認するところに似ています。

    そこへ! 若い妻に化けたお小姓がやってきます。少年が、妻役です。

    スライ:この人をなんと呼べば良いのじゃ?
    領主:マダム、と。
    スライ:アリス・マダム? ジョアン・マダム?
    領主:ただのマダム、でございます。

    大胆になったスライは、「ではマダム、服を脱いでベッドへまいれ」と命じます。

    お小姓は頭の良い子で「お医者さまから、目覚めてすぐのそれは大変危険とのことでございます」と答える。でもスライは諦めません。

    さあどうする?

    もしもスライが言い張れば、妻はフェイクでお小姓が演じていることがバレてしまい、ゲームオーバーです。

    ちょうどそこへ、大変運良く、メッセンジャーがやってきました。

    「閣下、お抱えの役者たちが、閣下のお目覚めをことほぎ、コメディを上演したいとのことでございます。お医者さまもそれは大変にふさわしいとのこと」

    その続きのセリフがいいんですよ〜

    「悲しいことをあまりにも見すぎると、血の巡りが悪くなります、
    そして、憂鬱は逆上を引き起こすもの。
    ですから芝居を一つご覧になるのが良し、
    気持ちを陽気に笑い転げれば
    幾千万の災厄を封じ、命は長らえるのでございます。」

    それが演劇の良さですよ、みなさん。

    スライは答えます。

    「そんなら見よう。ささマダム、俺の横へ座れ、そして世間の憂いを忘れよう。若返ることはできねえんだから」

    芝居を見るのに女性を横に座らせるのは、ハムレットがオフィーリアを座らせるのとそっくりですね。でもこの場面はもっと明るく、人生謳歌の気分に溢れています。

    世間の憂いを忘れよう、と訳しましたが、原文は 

    Let the world slip.

    かっこいい言葉ですね。

    現実逃避ですが、現実がうっかりスルッとどっかへ行ってしまう、それを放っておこう、「いいや、いいや、もう」という感じです。

    「どうせ若返ることはできねえんだから」は We shall ne’er be younger.

    現実を笑って楽しく過ごそう。

    なんか江戸時代の町人みたいですね。

    シェイクスピアは面白いね!

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    See you, Ciao!

  • 読み解きシリーズ【シェイクスピアを100倍楽しむ法】も始めました

    読み解きシリーズ【シェイクスピアを100倍楽しむ法】も始めました

    『シェイクスピアの演技術』の著者 三輪えり花がシェイクスピア作品を読み解いていきます。解説や研究を、演技や演出として、舞台や映像に立ち上げることのできるものにするにはどうしたらよいかのヒントをお届け!

    読み解きながら、シェイクスピアを100倍楽しめてしまう、【100倍シリーズ】のはじまりはじまり。

    第一弾は、(本当は『ヴェロゥナの二紳士』にしたかったんだけど、一言シェイクスピアシリーズで『じゃじゃ馬ならし』を始めてしまったので)『じゃじゃ馬ならし』

    シェイクスピアってこんなに楽しいよ、という動画を作りました。

    『じゃじゃ馬ならし』序幕に隠された「なになに!」をお伝えします。
    安心してください。日本語です。

    序の1で、スライという酔っ払いが、宿屋のおかみに追い出されて道端で泥酔しているところに通りかかった、「これは、このあたりの公爵でござる」

    Lord:  What’s here?  One dead, or drunk?
       See, doth he breathe?

    2nd huntsman:    He breathes, my lord.

    Lord:  Grim death, how foul and loathsome is thine image!  

    酔い潰れた姿は、死んだ人間の醜い姿そのもの。死という抽象概念を擬人化して話しかけ、「おい、不機嫌な死死神よ、ここに貴様の醜い姿があるぞ」。loathsome は吐き気を催すほど嫌悪感をもたせるもの。

    Lord:  What think you:  if he were conveyed to bed,
       Wrapped in sweet clothes, rings put upon his fingers,
       A most delicious banquet by his bed.
       And brave attendants near him when he wakes,
       Would not the beggar then forget himself?

    1st Huntsman:  Believe me, lord, I think he cannot choose.

    公爵は、こいつを連れ帰って公爵のように扱ったら愉快なんじゃないか?

    Lord:  Even as a flattering dream of worthless fancy.

    Even は just like の意味。日本語でも「ちょうど~みたいに」というのと似た使い方。「楽しい夢は虚しい想像の産物」。

    Servant:  An’t please your Honour, players
       That offer service to your Lordship.

    Lord:  Now, fellows, you are welcome.  

    役者たちが来ました、との報告を「よく来た」ともてなすここは、『ハムレット』を思わせる。

    A player:  So please your Lordship to accept our duty.

    Lord:  With all my heart.  This fellow I remember
       Since once he played a farmer’s eldest son.
       Well, you are come to me in happy time,
       The rather for I have some sport in hand
       Wherein your cunning can assist me much.
       Go, sirrah, take them to the buttery 
       And give them friendly welcome every one.
       Let them want nothing that my house affords.

    そして、丁重にもてなしてなんでも欲しいものをあたえるように、と命じるのもハムレットにそっくり。

    Lord: Sirrah, go you to Barthol’mew, my page;
       And see him dressed in all suits like a lady.

    少年が女性役を演じることが明確に命令されている、資料的にも貴重な台詞。

    Lord: Such duty to the drunkard let him do 
       With soft tongue and lowly courtesy,
       And say, “What is ‘t your Honour will command.
       Wherein your lady and your humble wife
       May show her duty and make known her love?”

    これこれこう喋り、こう動け、と台詞を与えて演技指導をするのは、やはり『ハムレット』に見られる。シェイクスピアはこんな初期から、こうして活動していたとわかる。

    Lord: And if the boy have not a woman’s gift
       To rain a shower of commanded tears,
       An onion will do well for such a shift,
       Which in a naplin being close conveyed
       Shall in despite enforce a waterly eye.

    涙を流すのは女性の才能。お小姓の少年が言われた通りに泣けない場合は、玉ねぎを使え。折りたたんだナプキンにこっそり忍ばせて、涙でいっぱいの目を作り出せる。

    Lord: I’ll to counsel them.  Haply my presence 
       May well abate the over-merry spleen
       Which otherwise would grow into extremes.

    「近くにいて見張っていよう、さもないと手に負えないほど盛り上がるだろうから」演出家がいなくなると役者たちが勝手に騒ぎ出していたことが伺えます。今も同じですね。

    まとめ

    序という大変短い場面なのに、シェイクスピアの生きていた時代の庶民と貴族の暮らし・風俗・演劇上演方法などがぎゅっと詰まっていて、ほんとにおもしろい。

    私はこうした知識を蓄えるのが大好きだけれど、それは、演出家・俳優という実演家として、立体の見せ物(ショー、舞台、娯楽)にしていくためです。
    知識をひけらかすわけではなく、また、知識を知識に留めるのではなく、どう立体化して生きた時間藝術にしていくかが、大事。

  • シェイクスピアは悪口大王 【一言シェイクスピア】

    シェイクスピアは悪口大王 【一言シェイクスピア】

    こんにちは、三輪えり花です。

    『じゃじゃ馬ならし』は幕開きから悪口言葉のオンパレード。シェイクスピアは高尚で格が高いなんて思い込みがいっぺんに吹き飛ぶ威力です。いってみましょう!

    🎭 A pair of stocks, you rogue!

    「貴様、足枷だ、このゴロつき!」

    酒場の女将がスライを追い出しながら言うセリフ。意味は「足枷かけて晒し者にしてくれる」です。
    当時は牛の首にかけるような木材に穴を開けて、それに両足首をかませて、逃げられないようにして晒し者にしたのです。

    翻訳もそこを出すほうが面白いかな。

    「足枷かけて晒し者にしれくれるわ、このゴロつきめ」

    お次!

    🎭 Y’ are a baggage.

    「てめーは袋だ」

    えっ、どんな意味ですか?

    袋って、なんでも入れますよね。女性に「袋」って言うと、つまり、え〜と、このような公式の場でいうのは憚れますが、あれです、売春婦の意味です。

    「てめーはな、ガバガバ袋だ」みたいな。

    そういえば、売春婦もわりと古い言い回しですかしらね。現代っ子は何て言うのでしょう。誰か教えて。

    次!

    🎭 Let the world slide.

    「世界が滑るに任せよ」

    えっ、どんな意味ですか?

    「俺は気にしない」という意味です。台詞にすれば

    「けっ、どうとでもなりやがれ」あたりでしょうか。

    この直前に、なんとラテン語で paucas pallabris と言うのです。スライさんは少し学があるようですが、このラテン語の意味は「few words」なので、「世界が滑るに任せよ」の意味とは全く異なってラテン語を憶えてしまったようです。

    ラテン語部分を金言のようにして翻訳すると

    「沈黙は金、世界が崩れ落ちても俺は気にしねー」あたりかしら。

    本日のラストは:

    🎭 Go to thy cold bed and warm thee.

    「冷えた寝床でおのれを温めよ」

    えっ どんな意味ですか?

    冷えた寝床ということは、一緒にベッドにいてくれる人はいないわけです。そこでおのれを温めよ、というので、具体的な絵は想像しなくても良いのですが、たいへん侮辱的なことを言っています。

    「行っちまえ、いけず後家、くたばりやがれ」くらいで。

    悪口言葉は、日本語にするのに本当に骨が折れます。言葉を訳すというより、雰囲気を日本語にしていく感じ。

    ではまた次回、最後までご視聴ありがとう。三輪えり花でした。

  • 新シリーズ 一言シェイクスピア:じゃじゃ馬ならし

    新シリーズ 一言シェイクスピア:じゃじゃ馬ならし

    みなさんこんにちは三輪えり花です。

    一言シェイクスピアの新シリーズを始めます。

    シーズン1は The Two Gentlemen of Verona, ヴェロゥナの二紳士 でした。全部英語で録音し、日本語で解説をつけてSNSやブログに投稿していました。

    今日から始めるシーズン2は、動画でも日本語を作成することにしました。ちょっと手間がかかるけれど、みなさんにもっとシェイクスピアを楽しんでいただきたいのでね。

    シーズン2で取り上げるのは The Taming Of The Shrew じゃじゃ馬慣らし です。

    シェイクスピアの一番最初の作品は何か、それが未だに謎なのですが、ヴェロゥナの二紳士、ヘンリー六世、タイタス・アンドロニカス、そして じゃじゃ馬慣らしはごく初期の頃の作品ということで研究者たちの考えは一致しているようです。そこで、シーズン2では、じゃじゃ馬慣らし を取り上げることにしました。

    じゃじゃ馬ならし はちょっと難しい戯曲でして、女性をとことんバカにしているのです。それを、女性も男性と同じように敬意ある扱いを、と願う人の増えた現代において、かつ、女性の観客が多い演劇界において、上演する意味があるのか?どう演出すれば皆が腹を立てずに済むのか?などいろいろ考えねばなりません。

    おまけに、この戯曲は不思議な構成を持っています。

    みなさん、ロミオゥとジュリエット の一番最初は、語り手が出てきて、

    「これからみなさんにこれこれこういう芝居をお見せします」と宣言するのをご存知ですか?
    それならまだわかりますけれど、じゃじゃ馬ならしは、変なんです。

    スライという酔っぱらい男が出てきて、道端で寝てしまい、そこの城主の冗談で、偽城主に仕立て上げられ、その偽城主のために、俳優たちが「じゃじゃうまならし」という芝居を演じてみせる、という構造なのです。

    スライは、キャラクターとして登場し、一般の観客たちと一緒になって、じゃじゃ馬ならしを見物するわけです。

    いったいシェイクスピアは何を意図して、こんな妙な構図を考えだしたのか、演出するなら、それも考えてみなくてはなりませんね。

    ほんと、上演するには問題の多いこの戯曲、一歩離れた目で面白がれば、とっても面白いので、みんなもいろいろ考えてみてくださいね。

    さて、その一番最初のセリフはこうです。

    I’ll pheeze you, in faith .

    おりゃぁ絶対、戻ってくっからよ、覚悟しとけやこら。

    酒場の女房に蹴飛ばされて転がり出てきながら着く悪態。

    そして悪態をつきながら寝入ってしまいます。

    そこへやってきたのは・・・

    と、それは次回のおたのしみ。 じゃあね〜 Bye.