バレエにおける演劇教育

鎌倉芸術館大ホールにて、「バレエにおける演劇教育」の話を依頼され、行ってきました。8月12日。

ジャンルを超えて、ドラマチックすなはち演劇的という部分を、テクニカルと同等に大事にしようと、それに賛同するひとたちが集まって、歌あり、生演奏あり、即興ダンスあり、の盛りだくさんなパフォーミングアートコンサート。

元々は、テクニカルに偏りがちなバレエダンサーに、演劇もバレエ教育に含めたいという強い思いを持っているプロデューサー市川喜愛瑠さんの情熱から始まりました。

出会い

コロナ前の夏、岸田國士の朗読に出演した三輪えり花の前に、終演後、「その演技力はどこからくるんですか?どんな演技訓練を受けてきたんですか?それをバレエダンサーの育成に使わせてください」と熱く語りかけてきたのが彼女です。

彼女は日本中、世界中にネットワークを広げるのが得意で、蓋を開けてみると、当時の平和なロシア、ドイツ、日本で活躍する各ジャンルのアーティストたちが集う場となりました。

いきさつ

それがある程度、形になってきたので、バレエダンサーのための演劇的ワークショップを実際に開催して、その発表会のようなものをしましょう、との企画が行われたのが、去年の12月。まだ平和だったロシアのモスクワ大学から演劇学と身体表現の教授ヴィクトルさんがワークショップのために招かれましたが、コロナ禍で入国が滞り、三輪えり花が最初のセッションを担当しました。

そのときもシンポジウムを同時開催し、バレエにおける演劇教育の話を、鈴木晶先生としたのですが、あまりに時間が短くて、自己紹介程度で終わってしまったので、次回、きちんとやりましょう、となり、実現したのが、昨日の鎌倉芸術館大ホールでのイベントです。

流れ

今回、第1部がパフォーミングアーツコンサートで、第二部がシンポジウム。第1部は朗読やオペラ歌曲やトランペット重奏があり、第一部の最後には、即興コンテンポラリーダンスが、10名ほどのダンサーによって披露されました。これを指導したのは、ミラノで70年台から活躍しているものすごい日本人、井田邦明氏。コメディアデッラルテやジャック・ルコックのようなフィジカル系のアーティストなら知らない人はいない、という大御所です。さまざまなジャンルの音楽から受ける印象や想像を即興のドラマにしていくというワークショップを4日間ほど続け、その発表をした、ということのようです。(間違っていたら、関係者のかた、訂正をお願いします)

そして、第1部があまりに面白くて押しに押し、第二部で鈴木先生がお話になっている途中で、プロデューサーが楽屋に駆けつけ、「えり花さん、押しているんです・・・」わ「じゃ5分で、ということですね?」プ「すいません」

・・・5分で・・・バレエにおける演劇教育・・・の話・・・。

こんなに美しく着付けていただき、メイクもヘアも何時間もかかったのに・・・。というか、なのに、申し訳ないです、5分だけの滞空時間のために・・・。
ご覧ください、この凝りに凝ったヘアスタイル!

で、メイクさんに「バレエにおける演劇教育と聞いて、何が知りたいですか?」とリサーチ。

その結果、お話ししたのは、5分のことなので、ここに書いても1分で読めるくらいです。 

5分でわかるバレエにおける演劇教育

みなさん、演劇と聞いて何を思い浮かべますか?
舞台で、役者が、大きな声で、大袈裟に、喋っている、そんな感じではないでしょうか?
でも演劇という漢字を思い浮かべてみてください。
劇を演じる、と書きますね。
劇とは、ドラマのことです。
ドラマとは、ドラマチックという言葉からもお分かりのように、平穏無事な日常に意図しない波風が立ち、そこに巻き込まれる人たちの気持ちも、意図せず大きく揺れ動く瞬間、それをストーリー仕立てにしたものが、ドラマです。
つまり、ドラマのある物語があって、その登場人物を演じるなら、それはもう演劇なんですね。
『白鳥の湖』も『くるみ割り人形』も演劇です。
私はこれを大学3年のときにカナダに留学した際の演劇科の授業で学びました。
バレエの人はバレエダンサー、オペラの人はオペラ歌手とご自分の肩書きを勘がるかもしれませんが、欧米では、自分達はドラマを演じるアクターなのだという意識をすごく強く持っています。演劇のアクターであり、それを表現する手段が、せりふなのか歌なのか踊りなのか、というだけの違いだと。
みなさん、日本人のテクニカルの高さには素晴らしいものがあります。そこへ自分は演劇をやっているんだ、キャラクターを演じているのだ、という意識を持てば、それだけですごく変わるのです。
じゃあ、演技はどうすればいいのか? 
簡単です。
例えば、大好きなハリウッド映画があれば、何回も見て、俳優たちの息遣いを観察したり、心の中を想像したりしてみる。それだけもかなりできるようになります。
けれど、それを表現するとき、大きな壁があります。
それは、表現するのは怖い、という気持ちの壁です。
このことは21世紀になってから、ことに強くなってきました。
みんな怖いのです。怖くて当たりまえですから、そこをひとつ乗り越えるといいですね。
でも、とっても安心できる点もあります。
それは、あなたはあなた自身の気持ちをやらなくてもいい、という点です。
自分がこんな人間だと思われたらいやだな、と思うと演技はしたくなくなってしまいます。
が、キャラクターはこういう人なんだ、キャラクターはこうするだろう、と考えられるのがドラマの良いところですね。
ぜひ、キャラクターがどんな変身をしていくかを遊び心で、お教室の先生やバレエ団の中で、試していってください。
きっと演じるのが楽しくなり、自分は劇を演じるアクターだという気持ちが生まれてくると思います。
そして日本のバレエがさらに表現力の点でも世界に通用していくようになるよう、一緒に進んでいきましょう。

楽屋で要旨をまとめ、脳内に大体の構図を描き、観客に語りかけるように話しました。時計もないし、大体これくらいで5分かな、と思ったところで、お辞儀をして、舞台袖で戻り、時間を尋ねると・・・

5分でした。

やったね。

今日の良かったこと

井田邦明氏にお目にかかれたこと(『英国の演技術』を贈呈)、
新国立劇場の『しらゆきひめ』に出演していたダンサー細野生くんに再会できたこと、
のダブル嬉しいもありました。

このBallet TEDという企画はこれからも続きます。ご期待ください。(いつかもう少しお話時間をもらえる日が来ますように)

『英国の演技術』玉川大学出版部

あ、演技力を高めたい人、自分は正確な意味での演劇をやっているのだと思う人は、『英国の演技術』をまず読んでみてくださいね。英国王立演劇アカデミー RADA でおこなっているレッスンをまるまる紹介している、夢のような本です。RADA の先生たちが、それ欲しい!英語にしてくれ!とおっしゃるような本です。ぜひ。

スタイリストさんとお友達


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