来年の3月ごろには上演したい気持ちで、
シェイクスピアの『大嵐テンペスト』の稽古をしています。
その中に、主人公の少女が、父親に向かって言う
こんな台詞があります。
Your tale, sir, would cure deafness.
逐語訳は
Your あなたの
tale お話
sir (目上の男性に話しかける際に使う敬称)
would (近い未来にありうるであろう気持ちを示す)となるかも
cure (病や傷を)治す・癒す
deafness 耳が聞こえない状態
さあ、どんな言葉にしますか?
日本語で実際に声に出してあなたが喋るとすると?
それを翻訳者は考えます。
・父親に向かって「あなた」とは娘としては言わないよね。
・父親への敬意は「ですます」で表せるかな。
・そう思うと、「あなた」の代わりに「お父様」かな。
・耳が聞こえない状態、って昔の言葉では「聾」があったけど、現代では放送禁止用語になっているからダメだよね。ミランダが使ったら観客はぎょっとするよね。放送禁止用語が撤廃にならないかなあ・・・
ここで、現存する訳をいくつか見てみましょう。
福田恒存「今のお話を聞けば、どんな聾でも耳を開きましょう」
おお、「あなた」「お父様」を使わずに言ったのは日本語的ですね。
この時代には「聾」も大丈夫だったのですね。
「cure」を「耳を開く」にしたのは面白いですね。
松岡和子「耳の聞こえない人でも、このお話には耳を開かれます」
おお、これも人称代名詞を使わずにきましたね。
そして「耳の聞こえない人」と現代風になっています。
二人ともが cure を「耳を開く」にしたのは興味深い。
三輪えり花「お父様のお話は聞こえぬ耳も癒します」
うーむ、ミランダが耳の聞こえない人と感じられはしまいか?
というわけで、今も模索中のフレーズの一つです。
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