LONDON 2019-11: Royal Opera House

2019年5月10日の夜はロイヤル・オペラハウス Royal Opera House (ROH)にオペラを観に行きました。

文化庁派遣新進芸術家在外研修員としてロイヤルアカデミーオブドラマティックアートRoyal Academy of Dramatic Art (RADA)に留学していた頃、

同じ研修員でロイヤルオペラに照明デザイナーとして留学していたかたがいらして、

「日本にはオペラ演出家が少ないから君みたいに英語ができる人が直接オペラ研修を受けてくれたらいいのに」

と、ロイヤルオペラハウスに口をきいてくれた。

だが、在外研修員の2年間派遣の条件は、同じ研修先にいること。

ところが、ロイヤルアカデミーの校長は、

「わたしがあなたの演出家としての研修にはロイヤルオペラでの半年間の研修が必要と認めるので、出向するように」

と指示をしてくれた。

それまでも、
英国北部で良い劇場の優れた演出家が芝居を打つとなると「そこまで行って研修してくるように」とわたしを送り出してくれていたので、

それと同じ方式でロイヤルオペラは数に送り出してくれたのだ。

思い返せばつくづくと、今のわたしは、いかに多くの方々の愛情と協力とで成り立っていることか!

ロイヤルオペラハウスRoyal Opéra House 略してROHでは、

まずゲルギエフの振るワーグナーの『ローエングリン』、

続いてジョン・エリオット・ガーディナーの振るマスネの『シェルバン』の、

それぞれ研修を受けた。

当時のわたしは、オペラは、モーツァルト劇場の『魔笛』のムーブメントディレクターや演出助手を務めはしたし、また、楽譜くらいはピアノのおかげで読めはしたので、困りはしなかった。

オペラの演出ということを、

舞台上の動きとビジュアルでどう見せるか、

に主眼を置いて、

また、

スタニスラフスキーのような
リアルな心理を俳優がちゃんと演じているかや、

シェイクスピアのような
言葉によって世界を作り出すことをしているか、

などを見ていた。
それに関して演出家はどう留意点を伝えていくか、などを。

毎日毎日、
朝10時から夕方5時まで、

昼はオペラ座にある出演者・スタッフ用の「学食 Canteen」で

夜は夜で、世界の一流も一流の出演歌手達と飲みに行って、

というありえないほど豪華な生活だった。

昼休みを除いた6時間の中で、みんなびっしり稽古する。

メインの稽古場は、オペラハウスの舞台と同じ大きさ。

そこにセットを組んで、演出家と稽古ピアニストと副指揮がいて、ひたすら稽古をする。

コーラスだけの稽古、デュエットの場面、全員の場面、振り付けの時間、などに分かれているが、毎日必ず出演者はオペラ座に来ている。

自分のメイン稽古ではない時間には、別の部屋でコレペティートルという音楽解釈指導者と一緒に歌と心理の稽古をしているのだ。

毎日毎日同じ作品を聴くうちに、おかげでわたしの耳もすっかり育って、ちょっとしたヘルツの違いさえ聞き分けられるようになった。

なにしろ、世界中から集まってきた、トップ中のトップと半年も一緒にいたのだ。

あのワーグナーの大作を、
気が動転している場面で、
息が持つの?と心配するくらい走り回る主役のソプラノ歌手の姿、

マスネのコメディでは、
二階の高さの梯子を、命綱もなしに、
客席に背を向けてぐんぐん登りながら歌う主役のメゾソプラノの姿、

明日から劇場入りという日の稽古で、
迫真の演技で、ついに喉がガリガリしてしまったソプラノが、
舞台稽古にはまた
元のコンディションに戻してきたり。

手を抜かない。

音楽のために心理の演技を疎かにしない。

いや、音楽のためにこそ、心理の演技が必要だと心底わかっている人たち。

真の心理を、どうしたら音楽に転化できるだろうか、

真の心理からくる身体の動きを、音楽と共にどうしたら表現できるだろうか、

その追求に必死な人たち。

そんなものを目の当たりにしてきたのだ、わたしは。

海外から来た主役の歌手達はコヴェントガーデンの近くにグランドピアノが二台も入っているようなマンションをそれぞれ借りて住んでいた。

一軒家の人、アパートメントの人。

なるほど、こういうことにギャラを使うのか。

ギャラ、プラス宿泊、じゃなくて、
ギャラの中で宿泊を自分で選ぶらしい。

でもみんなプライバシーと練習のために惜しまずに良いところに住むのね。

たくさんの人が笑顔で声をかけてくれた。

オペラや演出や歌手の心身のことや、いろいろたくさん話してくれた。

このときの経験がいかに役に立っていることか。

いやはや、つくづく、わたしは恵まれている!

なによりもわたしは、パフォーマーとしての真のプロフェッショナリズムをロイヤルオペラで学んだのだな。

そんなことをおもいだしながら、通い慣れたコヴェントガーデンの駅を降りて・・・

・・・あれぇ?

オペラ座はどこに?

まいったな、この界隈も変わり果ててしまった。

わたしがよく腰をかけていたあのあたりはどこに?
わたしがよく買い物をしていたあのあたりはどこに?

マイフェアレディの舞台になった大きな丸い柱の教会はあるし、オペラ座のガラス張りの建物もあるんだけど、

わたしが出入りしていた楽屋口を
わたしはすっかり忘れてしまっていた。

ショック・・・

この日に観たオペラの話は次の回で。


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