London2019-9: Tom Hiddleston

ロンドン日記2019の9です。

2019年5月8日、トム・ヒドルストンが主演しているお芝居を観にいきました。

Tom Hiddleston トム・ヒドルストンはイギリス映画とアメコミが好きな人ならよく知っている俳優です。

そう、Thorに出てくる悪役のロキですね。

あと、『戦火の馬』での若き軍人も演じていてめちゃくちゃかっこよかったですね。

彼は Royal Academy of Dramatic Art 出身で、昨日カムデンでカフェしたアレクサンダー・テクニークとムーブメントの先生イラン・レイシェルも、彼を教えていました。

イランには、アニマル・エクササイズというのの発表ビデオを見せてもらったのですが、トムはやはり素晴らしかったそうです。

言葉が主体と言われている英国俳優も、実は身体能力が断然必要なのです。古くは、イギリスを代表する名優ローレンス・オリヴィエが、オセロゥを演じる時にどんな身体になろうか、と画策した話が本にもなっているんですよ。

ベネディクト・カンババッチもまた、演出家やプロデューサー、劇評家や文学者に言わせると、「身体能力がものすごい」とか。

言葉と身体、教養と品格、知性と読解力。そして、努力とたゆまぬ訓練。

すべて供えているイギリス俳優はやはりすごいんです。

さて、このヒドルストンが、映画をとっていない間、ロンドンで、ハロルド・ピンター作『背信 Betrayal』に出演。

背信って日本語、かっこいいですね。

裏切り・不倫、っていう内容の話なのですが、背信って言われるとめちゃくちゃ難しい哲学的で難解なものに思えます。

が、英語で聞くと言葉も会話も軽やかでシンプル。

シンプルな会話が、かえって、観客に深いところを考えさせるのです。

こういうことを考えるにつけ、日本語翻訳は、難しくなりすぎる嫌いがありますね。

原因は、わかっているのです。

原因は、英単語の、名詞一言でパシッと内容を言い切ってしまえる特徴にあるのです。

そうなると、和語で「うらぎり」とするよりも漢語で「背信」とするほうが、なんかすっきりしたりするわけです。

シェイクスピアを訳していても、あー全部漢字熟語でいけたら結構いいのに、と思いますもの、訳すほうとしてはね。

聞かされるほうは苦労しますが、目で文字を追うなら漢語と熟語で編み上げるほうがシェイクスピアの翻訳はリズム的に合ったりするのです。

話が逸れた。

で、Betrayal 。

ウェストエンドに、ハロルド・ピンター劇場というところが あってね。

これはかつて、コメディシアターと呼ばれていたところなのですが、ロンドンで建築当初1881年の内装もそのまま残っている劇場としては一番古い。

ここでも【トラベル・シェイクスピア】を撮影したので、内装がご覧いただけます。

観てください、この内装の美しいこと。
淡いブルーに金の彫刻が施されて。
これぞイングリッシュという感じです。

ハロルド・ピンターのお芝居を、ハロルド・ピンター劇場で。

そう、ハロルド・ピンターとは、ノーベル・文学賞までもっている、脚本家・演出家・俳優でもあるのです。

欧米のひとたちはほんとに、演出も俳優も脚本もそして多くは美術も全部やってしまうシアトリストなんですよ。

わたしも、日本にいると「本当はなにが主体なの?」と聞かれるので、仕方なく「演出です」と答えますが、演出・脚本・俳優・美術、全部が職業のシアトリストです。

ちなみに、わたしの所属している公益社団法人国際演劇協会の演劇人は、シアトリスト、多いんですよ。みんなしかたなく、「演出家です」 とか「俳優です」とか答えていますけど。本当は、シアトリスト。

話が逸れた。

で、コメディ・シアターは、ピンター亡き後、その名を冠した劇場となり、こうしテピターの作品を上演しているわけです。(ピンター以外にももちろんありますよ。ちなみに2020年の1月から5月まではチェホフ作『ワーニャ伯父さん』です。)

肝心の、今回のBetrayal の中身ですが、もう最高でした。

2万円の価値のある舞台でした。

満席満席でとても無理だと思っていたのに、数日前に、1席だけ空いたのをゲットして、家の鍵もかかったので(笑)、無事に観劇。

何もない真っ白な舞台。床は円形に回る。
たまに椅子が二脚、キャラクターたちが持ち込み、座る。

それだけ。

信じられないくらい、それだけ。

その中で、親友同士の男二人と、そのうちの一人の妻がいる。3人だけの芝居。

うまくいっているように見える3人。

今日の場面の次は、数年前の場面。その場面の次は、昨日の場面。その次は、数年後の場面。そしてまた今日の場面。

と言った具合に、時空間がいったりきたりする。

だけど、おお!

どうして、いまロンドンで、いまヴェニスだ、と感じられるのか。

そして、もちろん、マイクはつけていない。マイクはどこにもない。生声です。

オックスフォード大学卒というキャラクターの立ち姿で立つヒドルストンの魅力的なこと。筋肉が美しいのだ。

もちろん、あとの二人もとても魅力的だった。

ところで、ヴェニスの場面で、トムは、ホテルのバルコニーに立って、運河の川面を眺めているらしいのだが、何度もわたしと目が合うんですよ。

しかも、一旦目が合うと、ずーっと見て、話しかけてくるんですね(せりふをね、キャラクターとして)。

独白は観客の目を見て、とは演出家として言っていますけど、いや、君が今見ているわたしは運河のはずだから、そこまで目を見なくてもいいんじゃないですか、と思いました。

。。。この件、数日後に、RADAの元校長のニックさんに、「Betrayalを見ましたよ」と言ったら、「トムはわたしを招待してくれたんだが、妻の典子は時間がとれなくてその日は行けなかったんだ」とおっしゃっていた。なので、トムは、わたしのことを、ニックさんの奥さんと勘違いしたんじゃないでしょうかね。。。

あとね、効果音がじつに本物らしく、ロンドンの場面だと、車の音とか、遠くでサイレンがなる音とか、見事にはまっていて、すごいなあ、音響まで、と感心しきり。

すっかり感慨深く、劇場をあとにすると、

え、消防自動車の群れ。

なんと、劇場の真向かいのビルから出火。

真っ黒くすすけている窓。

非常線と通行止め。

・・・劇中の、リアルなサイレンの効果音というのは、本物のサイレンだったんですね・・・苦笑

それにしても、ロンドンの場面設定のときに聞こえてたわけだから、俳優たちも演じながらびっくりしていたでしょう。

えらいこっちゃ。

演劇って本当にすごい!
 

To be continued…


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