ピラミッド。
カイロ。

王族の墓と言われていますね。
発掘した人は奇怪な死を遂げている、なんて都市伝説もありますね。

入ったこと、ありますか?

エジプト旅行をなさったなら、
入っていますよね。

何人で入りましたか?

団体?
新婚のカップル?
夫婦?
恋人同士?
ご家族?
友達?

ピラミッド五千年の歴史の中で、
たとえ盗人であれ、
ピラミッド内部に入るときは
かならず仲間がいたはずです。

ところが、わたし・・・
ひとりぼっちでした・・・

ええ、本当にひとりぼっち。
周りにだれもいないんです。

世界最大のピラミッド、
クフ王のピラミッド。

アラブ国際演劇祭での
1週間の劇場缶詰生活も終わり、
やっと、せめて1日、
帰国までにピラミッドだけでも、
との思いで、訪ねました。

太陽の舟を先に見たりしていたら、
世界一信頼できるガイドのハイサムさんが、
「エリカさん、クフ王のピラミッドは、入場制限があり、午前中の11時半までしか入れませんそうですよ。急ぎましょう」

とき既に11時15分。

慌ててピラミッドに向かい、
なんとか間に合う。

そこでガイドのハイサムさん
「カメラを持ち込んではいけないので、わたしがお預かりして、
下でお待ちしています」

とのことなので、
気軽にカメラを預けて、

いよいよピラミッド入り口へ。

チケット見せて、
カメラはあそこにいるガイドに渡したからね、
と入り口のガード
(どう見て普通の地元民のバイト)
に伝え、中に入ります。

入って5メートルも進んだ頃でしょうか、

背後の入り口の光が差し込まなくなった頃、

わたしは、周りに人っ子一人いないことに気がつきました。

団体も個人客も、
おそらくお昼のために
もうとっくにいない。

この巨大な石の墓場に
わたしのほかは

だ・れ・も・
い・な・い・・・

!!!

巨大な岩に何十メートルもの分厚さで囲まれた
無音の圧迫感は
筆舌に尽くしがたし。

それに、この、なんていうの?

な・に・か・

・・・い・る・・・
感じ・・・

!!!

生き物じゃなくて、
霊 spirits ですよ(複数形)

ハムナプトラに出てくるみたいな。

わたしがひとりでいるところ、
たった一人っきりで、
ここにいて、
周りにだれもいない、

それに気づいたSpirits が
ふりかえってこっちを見た感じ。

それから覗きにくる感じ。

いや、こいつはやばい。
これは乗っ取られる、
魂、吸い取られる。

それで、
なにがあっても、
記録が残っているようにと、
iPhoneを取り出し
(スマホはカメラじゃないくくりで幸いであった)
動画モードで
ひたすらしゃべり始めました。

とにかく音を出し続けよう、と。

ちなみに、照明は入っています。

日本とフランスの研究隊の名前が入った電球が
しんみりと、
通路に沿って灯っているのです。

メインの通路は、狭く細く、
なんとなく上に向かっています。

ふと脇を見ると
さらに真っ暗な別の道が
下へ向かっている。

こんなところに落とされたら
何百年も見つからないまま
なんだろうな・・・

でもいまは人間はいない。

もっと怖いやつがいる。

そのうち、なんとなく平坦だった道が
突然、急な階段に変わります。

この階段に登りあがるのさえ、
すでに冒険なみで、
両腕をかけて
えいやっと乗らなくてはならない。

しかも、階段が二本あって、
ひとつは左へ暗く進んでいる。

どっち?

とにかく上へ向かおう、
と上に登るほうへ進む。

しばらく、進む。

いつまでも進む。

暑い。
息が詰まる。
汗が滝のように流れる。
息が切れる。
急勾配。

どこまでいくんだ。

どんどんピラミッドの体内の
奥深くへ入っていく。

これはもうすでに
なにか別の世界にいるんじゃないか。


絶望しかかったころ、何か音がした。

人声だ。

上の方から。

助かった、せめて、誰か人間がいたわけだ。

上から降りてきたのはアラブ系の女性二人。
「この先には何がありますか?わたし、一人っきりで、怖くて。」

わたしの焦りと恐怖に気づいたのか

「大丈夫大丈夫、このすぐ上に、棺桶のある「王の間」があるから。そこに管理人もいるから。あと、4人の家族づれもまだいるから、絶対に大丈夫」

と言ってくれました。

「すぐ上」さえ、もうどれくらいすぐなんだか、見当がつかないくらい、ものすごく登ってきた気がする。

でも管理人も家族づれもいると言うので勇気を得て、再び登り始めました。

王の間の手前で家族づれが、もう帰ろうとしているところに到着。

そこには90センチ四方くらいの
横穴があり、
腰をかがめて中へ入ると、

管理人もいなくて、
またまたひとりぼっち。

ここはさらにものすごく蒸し暑い。
どうなってるんだ?

でも、天井の高い空間に突然出て、
思わず「ああ」と挙げた声の
それが石に反響する深みと荘厳さに
圧倒される。

それで、思わず、
高い音でまた声を出していたら、
管理人がどこかからすっ飛んできて、

「ダメダメ、神聖な場所ね。
声は低く」

あ、そりゃそうですよね。


わたしがさっきから握りしめている
スマホにも気づいた管理人が

「写真もだめよ」

はいはい、それは分かっております。


ところが、わたしが感動と感銘で、
この空間とつながっていることに
気がつくとこの管理人、
こっそりと
「写真、撮ってもいいよ」

まじか?

「うん、ちょっと内緒でね」

うわー。

「どこからきたの?」
「ヤポン」
「へえ、いいなあ。結婚してるの?」
「してませんよ」
「僕としない?」
「しません」
「どうしてー?」
「結婚はしません」
「じゃあさ、ぼくと付き合わない?」
「付き合いません」
「どうしてー?」
「恋人がいるもの」
「えー。僕にしようよー」

というアラブ英語のやりとりつき。

と、そこへなぜかもうひと組、
10人くらいの若い男性の団体が
到着した声が聞こえる。

「あ、他のお客さんきたから、写真はちょっとストップね」

はいはい。

その10人の青年たちは、来て、上を眺めて、棺桶を覗き込んで、去る。

わたしはまだ空間とつながっている。(わたしね、ある一つのところにいて、その空間の気と交わりながら、いろいろ思いを巡らすのが好きなのね)

管理人は静かにしている。

ようやく、
そろそろいいかな、と思い、
管理人に、お礼を言って、
「王の間」を出る。

出る前に、踵を返し、
管理人にこっそりチップをあげた。
ありがとう。

管理人は、写真を撮っていいよ、と言ってくれたのに、チップを請求するとか、せこいことはしなかった。
とてもいいひとだった。

降りるときは、
さっきの10人の若者が
私の先をおりていく音が
聞こえていたので、怖くはなかった。

ピラミッドを出て、ハイサムさんに今の話をする。

「エジプト人の夢のひとつに、国際結婚をしてエジプトを出ていく、というのがあるんです」

なるほど。

次回の「入エジプト記」は、太陽の舟と、砂嵐の話をしましょう。

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