良いことをして後悔したことはない

“I never did repent for doing good,”
「良いことをして後悔したことは一度もありません」

『ヴェニスの商人』で、夫のバッサニオをヴェニスへ送り出したポーシャは言います。英語の言い回しとしても覚えやすいせりふですが、ポーシャがこれを言うのはなぜだと思いますか?

もしかしたら、事実上結ばれる前に夫を莫大なお金と共にヴェニスへ送り出してしまったことに不安を感じているのかもしれません。それだけのお金があれば、バッサニオは一生、ヴェニスで遊んで暮らせそうです。男友達のアントニオのほうを大事に思ってここには戻ってこないかもしれないからです。

このように、言っていることとは少し逆の意味や気分を感じているときは私たちにもよくあることです。
「大丈夫」と言う場合などはとくにそうですね。大丈夫じゃないことがよくわかっていて、言う場合が多いと思いません?

【今日のライブインタラクション】
相手のことばの裏にある気持ちに気づこうとしてみよう

シャイロック・ロック

『ヴェニスの商人』の悪役シャイロックは歌うように喋ります。

契約不履行の罪で逮捕されたヴェニスの商人アントニオを前にして言う科白群を見てください。

Gaoler, look to him: tell not me of mercy;
This is the fool that lent out money gratis:
Gaoler, look to him.

I’ll have my bond; I will not hear thee speak:
I’ll have my bond; and therefore speak no more.

I’ll not be made a soft and dull-eyed fool,
To shake the head, relent, and sigh, and yield
To Christian intercessors. Follow not;
I’ll have no speaking: I will have my bond.

ロックやポップス、ヒップホップが好きな人なら、すぐにメロディを思いつけるような、リズミカルで口の端に登りやすいことばです。

あいつを見張れ、情けは無用だ
金を貸したのが運の尽き、
あいつを見張れ、見張っとけ。

・・・どなたか、続きを歌詞のように訳してみませんか?
歌詞だから、直訳無用です。

【今日のライブインタラクション】
歌の歌詞を書いてみよう。
言語感覚が優れてくるよ。

池辺晋一郎先生の教え

このたび文化功労者となられた池辺晋一郎先生からご指名を受け、石川県立音楽堂にて、「シェイクスピアと音楽」というトークショー(教養講座の位置付け)に行ってまいりました。

池辺先生とは、兵庫県立ピッコロ劇団にて、『ハムレット』をモチーフにした『くたばれハムレット』と『十二夜』でご一緒しています。
それ以来、たいそう可愛がってくださり、数年前には柏崎でもシェイクスピアの音楽に関して、エリザベス朝時代の古楽器演奏で、音楽と名セリフのショーをおこないました。

今回は、女声三重唱が入り、池辺先生の作曲されたものやシェイクスピア時代のものなどを演奏しがてら、シェイクスピアとはどういう人で何がどうすごいのか、というお話で盛り上がりました。
なかでも、次の言葉に、なるほど、とうなづきました。

「物語作品の作曲の場合は、その作品がその演出家の元で最も生きるように書きます。そのときに、自分はこういう論理で書いているとか、自分がこういう思い出作っているなどの自己主張をする人は、舞台作品の作曲には向きません」

たしかに池辺先生の曲は、ご自身の交響曲等はとても複雑だったりするのですが、物語作品への曲の場合は、馴染みやすく、気持ちを乗せやすく、さらーっと流れていくのです。誰も、「曲が良かったね」とか「曲が素晴らしい」などの感想を言わないのです。(にも関わらず、心に響く曲であり、口ずさみたくなる歌であるのが、池辺先生のモーツァルト的天才たる所以です)

お写真つきの詳細なブログを掲載しましたので、興味のある方は、ぜひご覧ください。

http://elicamiwa.com/blog/2018/11/11/ikebe-and-shakespeare/

【今日のライブインタラクション】
なんのためになにをしているのか、問い直してみよう。つまり、自分のエゴを満足させるために仕事をしていませんか?

I pray thee hear me speak. 頼む、俺の話を聞いてくれ

『ヴェニスの商人』でシャイロックが、ヴェニスの商人アントニオの身体の肉1ポンド(約500グラム)を切り取るという契約は、契約書に不備が見つからないため、どうしても法律上回避することができません。もしもアントニオが助かる可能性があるのなら、それはシャイロックが意志を撤回することだけです。

I pray thee hear me speak.

頼む、俺の話を聞いてくれ。

アントニオは繰り返し頼みます。が、シャイロックは聞く耳を持ちません。

Tell not me of mercy.

情けの話はやめろ。

と、鮸膠も無い(にべもない)。

両方の言い回しとも現代の英語口語と少し異なります。
「お頼み申す、聞いてたも」
「情けの話は聞く耳持たねえ」
(笑)のような江戸時代以前の言葉遣いですね。

現代語なら
Please listen to me.
Don’t talk to me of mercy.
となります。
 
古い言い回しは、外国人が古文の言い回しを使うようなもので、けっこう愛らしい。簡単ですので、ぜひ使ってみてください。
 
【今日のライブインタラクション】
古風だけど簡単な言い回しは案外コミュニケーションを柔らかくする

be a boy 男装する気分

『ヴェニスの商人』のポーシャは、新郎バッサニオをヴェニスへ行かせた後、自分は男装してヴェニスの法廷に乗り込みます。一体どんな意図を持っていたのでしょう?

ズボンを履くことについて

私は仕事柄ほぼジーンズで一年を過ごします。が、女性がズボンを履くようになったのは、つい1940年代のこと。それまでは、ズボンを履くなんてとんでもないことでした。乗馬でさえ、ドレスのまま行ったのです。

ズボンを履いて、スカートから解放されるのは、さぞや良い気分だったに違いありません。足にまとわりつかない。大股でサクサク歩ける。服がひっかからない。足を開いても、何かをまたいでも、泥道でも平気。

身動きの軽さは心の軽やかさを産みます。

身分を偽るのは大きな罪

心が軽やかになるのは良いけれど、シェイクスピアの時代は、身分を偽るのは、嘘をつくのと同じ。嘘はキリスト教では最悪の罪のひとつです。

さらに、女性は男性よりも下の身分。下の立場の者が上の身分を得るのは、嘘の罪に加えて、反逆罪にも通じます。バレたら相当やばい。

男装する気分とは

そう、気分が良いと同時に、嘘をついているという大きな罪悪感があります。けれど、バレないことがわかったら、徐々に気が大きくなってくるでしょう。ポーシャもきっとそのような心の旅をしたに違いありません。ポーシャのみならず、男装する登場人物はシェイクスピアには『十二夜』『お気に召すまま』に出てきます。ちなみに『ヴェニスの商人』では、シャイロックの娘ジェシカも男装して逃亡しますね。

【今日のライブインタラクション】
変装してみよう。サングラスでも帽子でもかつらでも。現代ではもう罪ではない。違う自分を味わってみましょう。

ポーシャがバッサニオをヴェニスへ行かせる前にしたこと

『ヴェニスの商人』愛しのバッサニオをヴェニスへ旅立たせる前に、ポーシャはこう言いました。

「あなた、教会で式を挙げたら、直ぐにヴェニスのお友達の元へお行きなさい。あなたが戻るまで私は未亡人として尼僧院で暮らします」

これ、日本人にはとってもわかりにくいと思うんですが、「教会で式を挙げる」=「結婚した」と思いますでしょう? ところが、キリスト教においては、

「結婚」=「神様の代理人を通して神に、この人と家庭を持つという契約をしますと誓う(精神的に結ばれる)」+「実際に肉体的に結ばれる」

つまり、夜にあれこれして初めて、神様との約束が履行されることになるわけです。

「教会で式を挙げたら直ぐに」本当は夜のあれこれをしなくてはならないはずなのに、ポーシャはバッサニオをヴェニスへ送ります。

これはつまり、神様との約束を半分しか果たしていないことになるわけです。結婚式はしたから「妻」という立場ではあるものの、肉体的に結ばれていないのでまだ「娘」。しかも普通は夫と妻は常に一緒に行動するものなのに、夫を一人ヴェニスへ送り出してしまうのは、ポーシャにとっては夫を失ったも同然な気持ちです。

それゆえ、「尼僧院で未亡人として暮らす」という選択をするわけです。

キリスト教社会のルールは、ややこしそうですが、結婚についてのこの方程式↓

結婚=精神的結合(式)+肉体的結合(初夜)

とわかっていれば、『ロミオとジュリエット』もほかの映画やドラマの構造もわかりやすくなります。

【今日のライブインタラクション】
結婚をテーマにしたヨーロッパ映画を見てみましょう

What, No More? え、それだけ?

今週末の金沢での、
池辺晋一郎先生との
シェイクスピア対談を控え、

ご紹介するシェイクスピア
関連のスライド作りも、
昨日やってしまいました。

楽しみです。

というわけで、久しぶりに
『ヴェニスの商人』の、

日常でも使える名科白を
ご紹介しましょう。

  What, no more?

「え、それだけ?」

愛しのバッサニオの
親友アントニオが
借金のかたに
殺されそうだ

というので、ポーシャは
どれほどの借金だったのか
を尋ねます。

するとバッサニオは
「三千ダカット」
と答えます。

日本円にして3億円くらい。

それを聞いたポーシャの
答が、それ。

ポーシャがどれほど
お金持ちか、わかります。

この言い回し、いろいろなところで使えますよ。

お給料が安い時も。

やろうと思っていた作業が
すぐに終わった時も。

相手から褒め言葉が
すくなかった時も(これは冗談でね)。

相手からいろいろ言われた後でも。

さて、この後、ポーシャは、

「三千ダカットの三倍、
さらにその三倍、
用意して差し上げます」

と断言し、

お金を持たせて
バッサニオをヴェニスへ
送り返します。

彼をヴェニスへ送り返す際、実は結構キリスト教徒としてはいろいろある。

それについては、知っておくととっても役に立つので、次回。

【今日のライブインタラクション】
「What, no more?」あなたはいつどんな場面で使いますか?

早くも次の舞台へ

『私は太田、広島の川』が終演したのがわずか1日前のことだなんて!

早くも次の舞台に向けての準備が始まります。

とはいえ、それは今週末、金沢で。
大好きな池辺晋一郎先生(作曲家)とのシェイクスピア対談です。

http://elicamiwa.com/blog/2018/11/02/ikebe-shakespeare-kanazawa/

ワクワクして準備を進めています。

皆さんはワクワクすることを持っていますか?

【今日のライブインタラクション】
1日ひとつ、無理にでもワクワクする。

太田川の演技を構築する上で

『私は太田、広島の川』

おかげさまで無事に千穐楽を迎えることができました。

この作品に出演するに至った経緯と、
この作品に出演するにおいて演技の何が必要だったかを

ブログにまとめました。

台本読解と演技の大切さ『私は太田、広島の川』千穐楽!

【今日のライブインタラクション】
テクニカル・スキルと感受性、両方大事にしていますか?

三日目の公演は最後のダメ出しをクリア!

三日目の公演の模様をお写真付きでアップしました。

実は二日目の夜公演で、演出の岡田先生から「呼び出し」!

初日と二日目の昼は「素晴らしかったのよ、でも夜のは方向が違う」だそうで。

詳しくはブログに書きました。

『私は太田、広島の川』3日目の公演

【今日のライブインタラクション】

自由に演じることと最新の注意を払うことの共通点はなんでしょう?